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Science with MAGIC

発表論文リスト (国際ウェブサイトへジャンプ)


MAGIC望遠鏡による観測結果 (国際ウェブサイトジャンプ)


日本グループメンバーによる学会発表・学位論文


観測結果(ハイライト)

2023/2/4 [プレスリリース] 巨大望遠鏡で狙う暗黒物質からの“光” ―― 天の川銀河中心観測で解き明かす宇宙暗黒物質の起源と正体

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2019/11/21 [プレスリリース] 地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測 〜誕生直後のブラックホールから過去最高エネルギーのTeVガンマ線放射を確認〜

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2018/7/13 [プレスリリース] 銀河系外高エネルギーニュートリノ放射源天体の同定に成功

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2014/11/10 [プレスリリース] 超巨大ブラックホールが放つ稲妻。電波銀河IC310から激しく短時間変動する高エネルギーガンマ線放射を検出。

MAGICチェレンコフ望遠鏡は、地球から2.6億光年離れた電波銀河「IC310」の中心にある、太陽の3億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールにて発生した、超高エネルギーガンマ線の爆発現象を捕まえました。このガンマ線の爆発現象からは、かつて無いほど急激で速い強度変動を示すガンマ線放射が確認されました。東京大学宇宙線研究所のプレスリリースはこちら。


○発表のポイント

  • 世界最大級のMAGIC チェレンコフ望遠鏡により、天体IC310の中心に位置するブラックホールからの激しく短時間で変動する高エネルギーガンマ線放射を観測しました。

  • ブラックホールのサイズよりもはるかに短い時間変動の放射が観測されのは初めてです。この結果から、ブラックホール極軸領域でおこる新たなガンマ線放射メカニズムが必要であることが明らかにされました。

  • 今後、観測・研究を深めることにより、未だに謎の多いブラックホールや、その近傍で起きている極限的な現象をさらに明らかにすることができます。


○発表概要
東京大学宇宙線研究所 手嶋教授らの研究グループ、京都大学 窪准教授らの研究グループ、東海大学、徳島大学、高エネルギー加速器研究機構の研究者が参加する国際共同実験、MAGIC 国際共同実験により、ペルセウス銀河団にある電波銀河「IC310」の中心に位置する超巨大ブラックホール(注1)から、激しく時間変動するテラ電子ボルト高エネルギーガンマ線放射(注2)が観測されました。観測された時間変動はブラックホールのサイズよりもはるかに短い時間変動であり、今まで知られているジェット中でのガンマ線放射では説明できません。高速度で回転するブラックホール極冠付近に電位ギャップが生成され、激しい粒子加速・ガンマ線放射が起こるという新らたなモデルが必要とされます。高エネルギーガンマ線天文学は、謎の多いブラックホール、またその周辺の極限的物理状態の研究をさらに進展させると期待されます。


○発表内容
2012年11月12日、17m口径チェレンコフ望遠鏡(注3)2台で構成される「MAGIC」は、天体IC310から、非常に強烈なガンマ線放射を観測しました。5分間という短時間で強い変動を示したその放射は、大きな驚きに満ちた現象でした。特殊相対論によれば、物体表面全体の明るさが変化するには、最低限、光がその大きさを通過するだけの時間が必要になります。IC310の中心ブラックホールの大きさは、太陽と地球との距離の数倍程度であり、そのサイズは光が通過するのに約20分かかる大きさに相当します。IC310から今回観測された爆発現象は、全くの予想外の現象となりました。

全ての銀河は、その中心に太陽の100万倍から10億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールを有すると考えられています。一部の銀河では、その中心ブラックホールに降着するガスが銀河全体よりも明るい強烈な光を放ち、「活動銀河核」と呼ばれています。さらに、その活動銀河核の中には、そのブラックホール周辺から光速に近いプラズマ流「ジェット」を噴き出している天体も存在します。ジェットは電波からガンマ線に至るまでのあらゆる帯域の電磁波を放出します。IC310は、このようなジェットを持つ天体であり、地球から2.6億光年離れた「ペルセウス銀河団」に属しています。

MAGIC望遠鏡は、2009年に、この天体から初めて超高エネルギーガンマ線の放射を発見しました。この発見により、IC310は「ブレーザー天体」、つまり、この天体が持つジェットは観測者の方向に噴き出していることが分かりました。この時、ジェット内の「プラズマ流」が光速にわずかに(数%)満たない程度の速さで動いていると、ジェットは『見かけ上』光より速く動いているように見えます。この時「相対論的ビーミング」の効果により、ジェットからの放射は強調され一層明るくなり、さらに実際よりも急激な放射変動が見える事になります。ただし、今回の観測結果は、その効果を考慮しても単純には説明できないほど、ガンマ線放射は明るく速い変動性を示したのです。

今回観測された結果から、以下のようなブラックホール周辺の描像が見えてきました。中心のブラックホールは高速で回転しており、これは星間物質が中心に降り注いで形成された結果だと考えています。このブラックホールが磁気圏を有した場合、極方向の磁場中に電位のギャップが発生し、そこに強い電場が現れます、この電場に沿って荷電粒子は超相対論的なエネルギーにまで瞬時に加速されることができます。これら高エネルギー荷電粒子が、周辺の降着ガスからの光子を叩き上げて(逆コンプトン散乱)ガンマ線を作りだすのです。 これは、嵐の中で数分毎に蓄えられたパワーを放電する稲妻にも似ています。同様の現象が太陽系程の大きさの領域にて発生し、銀河のはずれまで相対論的な速度で粒子を打ち上げているのです。

このように、ブラックホールを高エネルギーで観測することで、銀河の中心核を非常に深くにまで踏み込んだ研究が可能となります。つまりは、銀河のエネルギーの源を直接見ている事になるのです。このような研究は、MAGIC望遠鏡が持つ高い感度と低いエネルギー閾値による広帯域観測の性能を最大限に生かした結果だと言えるでしょう。この性能は、特に、今回のような遠方の銀河の中心にある超巨大ブラックホールの観測に非常に適したものです。

図1:MAGICチェレンコフ望遠鏡により観測された電波銀河IC310。IC310の中心には太陽質量の3億倍の超巨大ブラックホールが存在する。このブラックホールの大きさは、太陽・地球間距離の数倍である。左挿入図は、ブラックホールから噴出するジェット根元部分の電波望遠鏡(欧州VLBIネットワーク)による観測。



図2:MAGICチェレンコフ望遠鏡により2012年11月12日に観測された「IC310」 からの高エネルギーガンマ線強度の変動。5分程度で強度が倍増していることがわかる。ブラックホールの大きさは、ジェットによる相対論的な時間の短縮効果を考慮しても20分相当であり、ガンマ線放射がブラックホールのより狭い領域で起こっていることがわかる。



図3:IC310 において観測された短時間の激しい高エネルギーガンマ線の強度変動は、高速度で回転するブラックホール極軸付近の磁気圏に、電位ギャップが生成され、その電位差を使い、電子と陽電子が加速され、ガンマ線が放射されたとして説明される。



図4:MAGICチェレンコフ望遠鏡。世界最大級の17m口径の大気チェレンコフ望遠鏡2台からなる。カナリー諸島ラパルマにあるロケ・ムチャチョス天文台 (2200m)に位置する。CTA 23m 大口径チェレンコフ望遠鏡 1号機の設置が予定されている。

MAGIC望遠鏡は、ヨーロッパ北天文台、カナリア諸島ラパルマ島に位置しています。2台の17m口径のチェレンコフ望遠鏡で構成されたシステムで、25 GeVから50 TeVまでのエネルギーのガンマ線を観測する世界最大級の装置です。高エネルギーガンマ線は地球大気に突入すると、空気の原子核と相互作用し、二次粒子を雪崩状に生成する空気シャワーを発生させます。それら粒子はチェレンコフ光を放出します。2台のMAGIC望遠鏡にて、これらチェレンコフ光を検出し、空気シャワーを立体的に再構築することで、銀河系内・系外天体から飛来するガンマ線を観測しています。MAGICは、日本とヨーロッパの国々から約160名の科学者が参加している国際プロジェクトです。

本研究結果は、Science誌, 2014年11月28日号, 論文タイトル:Black hole lightning due to particle acceleration at subhorizon scales, 著者:The MAGIC Collaboration, J.Aleksic et al.に掲載されました。

紹介ビデオは、こちらをクリックしてください(Youtubeにジャンプ)。

○お問合せ先
手嶋 政廣(東京大学)mteshimaicrr.u-tokyo.ac.jp
窪 秀利(京都大学)kubocr.scphys.kyoto-u.ac.jp

○用語解説
(注1)超巨大ブラックホール — IC310の中心部には太陽の3億倍の質量をもち、太陽・地球間距離の数倍の大きさをもった超巨大ブラックホールが存在する。このブラックホールは高速度で回転していると考えられる。
(注2)高エネルギーガンマ線 — 電磁波の中で最もエネルギーの高い電磁波をガンマ線・高エネルギーガンマ線と呼ぶ。近年、チェレンコフ望遠鏡によりテラ電子ボルト(1兆電子ボルト)領域まで宇宙観測の窓が開けた。
(注3)チェレンコフ望遠鏡 — 高エネルギーガンマ線は地球大気に突入すると、空気の原子核と相互作用し、二次粒子を雪崩状に生成する空気シャワーを発生させます。それらの二次粒子は青白いチェレンコフ光をビーム状に放出します。2台のMAGIC望遠鏡にてこのチェレンコフ光を検出し空気シャワーを立体的に再構築することで、銀河系内・系外天体から飛来するガンマ線を高感度で観測することができます。


2012/4/3 [プレスリリース] 「かにパルサー」からの超高エネルギーガンマ線放射

「かにパルサー」は1秒間に33回の速さで回転する、強い磁場(1億テスラ、地球磁場の1兆倍以上)を持つ中性子星です。このパルサーは地球から6000光年離れた、牡牛座の「かに星雲」の中心にあり、この星雲にエネルギーを供給しています。「かにパルサー」、「かに星雲」ともに西暦1054年に起きた超新星爆発のあとに残された残骸です。「かにパルサー」のような中性子星は非常に高密度な星で、その直径が20 kmであり、太陽の7万分1の大きさであるにもかかわらず、太陽と同程度の質量を持ちます。現在まで我々の銀河(天の川銀河)内で約2000ものパルサーが電波望遠鏡等により見つかっており、これらパルサー天体の回転周期(地球の場合1日)は極めて規則的で、その周期は1ミリ秒から10秒程度です。回転中、パルサーは主に電子と陽電子からなる荷電粒子を放出します。これらの粒子は中性子星と同じ速度で回転する磁力線に沿って移動し、光子ビームを放射します。まるで遠くから灯台を見るときのように、ビームが我々の視線方向を向いたときのみ天体は明るく見えます。

MAGIC国際研究グループは2008年に「かにパルサー」からの25 GeV(注1)のガンマ線放射の発見を雑誌 Scienceに発表しました。この発見により中性子星の表面から遠く(60km以上)離れた位置で放射が起きているとの驚くべき結論が導き出されました。これは、高エネルギーのガンマ線は天体の磁場により非常に効率よく遮断されることから、もし中性子星近くで放射が起きている場合、そのような高エネルギー領域での放射は検出されないはずだからです。

今回、MAGIC望遠鏡による観測で、さらに驚くべき結果が明らかになりました。2年間にわたる、計73時間の観測により、予想をはるかに超える400 GeVという高いエネルギーに達する超高エネルギーガンマ線パルス放射を発見しました。また、パルスの幅がおよそ1000分の1秒と極めて短いこともわかりました。この発見は、今までのパルサーからの放射の理解に対して、おおきな疑問を投げかけるものです。

この疑問に答えるため、相互作用により生成された二次粒子がパルサーの磁場による遮蔽を乗り越えるとするモデル、また別の可能性として、カニ星雲にエネルギーを供給しているパルサー風(注2)の中においてもパルサー放射が起こっているとするモデル(関連論文1)が提案されています。しかし、どちらのモデルも今回観測された極めて高いエネルギーで、かつ時間幅の狭いパルス放射について、十分な説明を与えていません。今後、さらなる観測によって、より高精度の観測データが得られ、パルサー放射機構の謎が解かれることが期待されます。


図1:MAGIC望遠鏡は、「かにパルサー」からの25 GeVから400 GeVにいたるエネルギーの超高エネルギーガンマ線を検出しました。図はMAGICによる、かにパルサーのパルス放射。


図2:上部合成写真は可視光とX線による、かに星雲のイメージと、パルサー磁気圏を表すイラスト。下はMAGIC望遠鏡で観測された、0.0337秒周期パルスの超高エネルギーガンマ線の光度曲線。

本研究成果は、Astronomy and Astrophysics誌、540巻、 論文タイトル:Phase-resolved energy spectra of the Crab pulsar in the range of 50-400 GeV measured with the MAGIC Telescopes、 著者:The MAGIC collaboration, J. Aleksic, et al.に掲載されました。 東京大学プレスリリースはこちら

○用語解説
(注1)GeV(ギガエレクトロンボルト)は1000,000,000電子ボルトのことでおよそ可視光の10億倍のエネルギーに相当する。
(注2)パルサー風とは、パルサーから放出されるほぼ光速に近い電子と陽電子の流れ。

○関連論文
(論文1)F.A.Aharonian, S.V.Bogovalov & D.Khangulyan, Abrupt acceleration of a 'cold' ultrarelativistic wind from the Crab pulsar, published in Nature, Vol. 482, pg. 507-509 (2012)

BL Lac天体MAGIC J2001+439からのVHEガンマ線放射発見と赤方偏移決定

MAGIC J2001+439 (0FGL J2001.0+4352) は、GeV ガンマ線領域で明るく、ハードなスぺクトルをもっているFermi 天体 (Fermi bright source) の1つで、Fermi 衛星によってGeVガンマ線放射が検出された当初から、対応天体が見つからない正体不明ガンマ線源(Fermi unidentified source) として考えられていました。

しかし、その後の先行研究 (Bassani et al. 2009) によって、同一視野内にある天体が探索され、電波からX線エネルギー領域で明るい天体 MG4 J200112+4352 に対応することが報告されました。さらに同先行研究から、この対応天体の可視光分光スぺクトルや、多波長エネルギースぺクトルが詳細に調べられ、High-frequency-peaked BL Lac (HBL) 天体の特徴を示すことが明らかになり、HBL 天体に分類されました。

この天体の赤方偏移はこれまで正確に測られておらず、unknown redshift 天体であると考えられていました(z > 0.11, Shaw et al. 2013)。

私たちは、ハードなGeVガンマ線スぺクトルを示すこの天体(0FGL J2001.0+4352) を良い VHE(Very High Energy)ガンマ線候補天体と位置づけ、2009年から2010年にMAGIC望遠鏡を用いたステレオ観測を行いました。 その結果、2010年7月16日に Fermi天体 0FGL J2001.0+4352 から初めて有意なVHEガンマ線シグナル(6σ, E > 70 GeV) を検出することに成功し、この天体を VHEガンマ線源 MAGIC J2001+439と名付けました。 さらに、このVHEガンマ線検出の観測結果は、速報としてAstronomer's Telegram へ報告しました(Atel 2753)。

図1 MAGIC J2001+439同時観測によるVHEガンマ線から電波までの多波長光度曲線。上から順にVHEガンマ線((a)MAGIC),ガンマ線((b),(c)Fermi-LAT),X線((d)-(f)Swift-XRT),紫外線((g)Swift-UVOT),可視光(h),電波(i)の観測結果。(クリックで画像拡大)

この観測で得たMAGIC J2001+439のVHEガンマ線光度曲線と、同時観測キャンペーン中に得た多波長光度曲線の結果を図1に示します。この図から、MAGIC J2001+439は、電波からガンマ線の全てのエネルギー領域で変動を示す特徴があり、その中でも特に X線領域で激しい時間変動を示していることが明らかとなりました。

さらに、銀河内の星やダストから放射され、銀河系外を満たしていると考えられている、紫外線から赤外線 波長域の低エネルギー光子 (銀河系外背景光; Extragalactic background light, EBL)と VHEガンマ線 の相互作用によるガンマ線の吸収過程 (γ + γ --> e- + e+)を仮定することによって、MAGIC J2001+439 までの距離 (赤方偏移) を推定しました。 (ここで、これまでに提唱されているEBL密度モデル Franceschini et al. (2008) を仮定し、今回、MAGIC観測から得たVHEガンマ線の吸収量を補正することによって、ガンマ線がどれだけの距離を走ってきたかが推定できます。 このEBLによるガンマ線の吸収過程 (EBL密度モデル) は、天体から放射されたガンマ線のエネルギーEと天体までの距離zに依存していると考えられています。)

結果、私たちはVHEガンマ線スぺクトルを用いて、初めて MAGIC J2001+439 の赤方偏移をz = 0.17 ± 0.10 と推定することに成功しました。この値は、2013年6月にMAGIC共同研究者らによって行われた follow-up 観測(Nordic Optical Telescope を用いたホスト銀河光度観測) から測られた赤方偏移z = 0.18 ± 0.04 と非常に良く一致することが確認され、本研究成果から MAGIC J2001+439 の赤方偏移を決定することができました。

図2 MAGIC J2001+439のエネルギースぺクトル

今回決定した赤方偏移を適用し、2010年7月16日のMAGIC J2001+439の多波長同時エネルギースぺクトル (SED) に対して、放射モデル解釈を与えた結果を図2に示します。 MAGICでVHEガンマ線フレアを検出した7月16日の多波長同時SEDは、シンプルな 1 ゾーン シンクロトロン自己コンプトン (one-zone SSC) 放射モデルで良く再現できることが分かりました。

本研究成果のプレプリント版は、Astronomy & Astrophysicsのオンライン上に掲載され、また astro-ph プレプリントサーバーからも自由にご覧頂けます(arXiv:1409.3389)。